東京高等裁判所 昭和43年(う)2489号 判決 1969年4月21日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
<前略>
論旨は要するに、原判決は被告人が弁護士でないのに、東京都港区芝田村町五丁目一〇番地近藤ビル内塚本法律事務所において、報酬をえる目的をもつて佐竹浪義の依頼により、同人の竹内奎吾に対する土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件外一件の訴訟事件に関し、着手金等合計四三万五千円を受け取りかねて月額三万円の報酬で雇い入れた弁護士古谷明一をして訴提起等の事務処理をなさしめ、もつて法律事務を取り扱つた旨認定しているが、同弁護士は、右事務所を被告人と共同で使用し、右各訴訟事件に関し、依頼者の代理人として訴訟行為をなしたに止まり、民法上の雇傭関係に基づき被告人の労務に服したものではなく、また、被告人は前記金員を佐竹から同弁護士の代理人として受取りこれを同弁護士が負担すべき事務所の経費に充当したにすぎないから、本件につき被告人を有罪とした原判決は事実を誤認したものであるというに帰する。
しかし記録を調査すると、原判決認定事実は、挙示の証拠により肯認するに十分である。すなわち、右証拠によれば、被告人は弁護士の資格を有しない者であるところ、法定の除外事由がないにもかかわらず、弁護士古谷明一をして昭和三八年三月より、毎月金三万円の報酬を給するという約定で、被告人の賃借する原判示事務所において、被告人が割当てた訴訟事件等の処理に従事させていたこと、佐竹浪義の依頼にかかる本件所有権移転登記抹消登記手続請求事件および不動産競売手続停止仮処分命令申請事件についても、同弁護士は被告人の指示を受けて原判示のように、訴提起、仮処分命令申請の各手続をなしたこと、右両事件に関し三回にわたり授受された着手金等合計四三万五千円は、すべてその都度佐竹から被告人に手交され、同弁護士は被告の支給した昭和三八年三月以降同年一〇月分までの月額約三万円の報酬のほかは右事件処理に関し特段の収益をえていないことが認められる。(しかし、佐竹が支払つた前記金員は、被告人が同弁護士の代理人として、同弁護士が前記事務所の共同使用者として負担すべき経費の一部に充当する目的でこれを受領したとの所論にそう被告人の検察官に対する供述調書および原審における供述は、他の証拠と対比して信用し難く、他に右主張を確認できる証拠はない。)
以上の事実関係にてらせば、被告人の本件所為は、弁護士法第七二条の禁止する、弁護士の資格を有しない者が報酬をえる目的で訴訟事件に関し法律事務を取り扱つた場合に該当し、同法第七七条の罰則の適用を免れないものというべく、被告人を有罪とした原審の判断は正当であつて、所論のように、被告人と古谷弁護士との関係が民法上の雇傭関係と異なるものでありまた、同弁護士は依頼者佐竹のために訴訟行為をなしたに止まつたとしても、そのことは右結論を左右するものではない。論旨は理由がない。
よつて刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。(還藤吉彦 吉田信孝 菅間英男)